ZeroTubeGuitarAmp
2006年初夏に完成した小型ギターアンプです。筐体はゼロ・ハリバートンのカメラケースを流用しています。開発に至るそもそもの切欠は、持ち運びが楽な、レコーディング用ギターアンプが欲しくなったことにありますが、最初から出音に自信があった訳ではなく当初はガジェット的な色彩が濃いものでした。ただし、採用する回路には本格的な真空管ギターアンプのものを想定していました。


注文したスーツケースが届いてまず行うことは、部品のレイアウトです。実際に加工を行う前に、デザインを含めた詳細を煮詰めていきます。

今回は、コントロール用ノブの配置から始めてみましたが、小さな筐体だけに無駄なスペースは殆ど無く、しばらく試行錯誤が続きます。案の定、当初の計画には不具合が生じ、フォン端子の配列変更を余儀なくされてしまいます。


真空管は、いうなれば「電球」のようなものなので、それを使った回路はソリッドステイトとは比べものにならない量の熱を発散します。従って、真空管回路を設計する場合、放熱に気を配る必要があります。

この時点では、パワー管の配置を決定しておりませんでしたが、とりあえずトランクの蓋部分にスリットを空けて、空気の通り道を確保します。


オリジナルのロゴを生かす形で、放熱スリットを確保します。ゴミやピック等の小物が混入することを防ぐため、スリットにはメッシュを奢っておきます。

スリットに使った金具は、ステンレス製の組み立てラック用の、継ぎ手を転用しました。

もちろん、鍵の機能は生かしています。


今回の製作に使用する部品達です。真空管回路を製作する時に一番ネックになるのは電源の選択なのですが、今回は、フィラメント点灯用と、増幅回路用の電源を分離しています。大飯喰らいのフィラメント用電源には、12Vのスイッチング電源を使用しています。また、電力増幅管には、軍用ビーム管6384のペアを用意しました。


その後、スピーカーの設置用のサウンドホールをデザインし、ケース蓋部分をハンド・ルーター切り抜きます。

ゼロハリのジェラルミンは硬度が高く、ルータービットが直ぐに痛んでしまいました。


スピーカーはご覧のような木製のサブフレームに取り付けたあと、本体に実装します。フレームの材はオークですが、スピーカーの振動は思ったより強烈で、そのうえ、真空管の発する熱の問題もあるために、あまりサクイ材質の木を使うと耐久性に問題が生じるようです。



仮レイアウトが終わった筐体内部。重量物の出力トランスや電源は、できるだけボディー下部に配置することを心がけます。

真空管に関しては、放熱の他、振動のキャンセルに留意する必要があります。

当初設置していた強制空冷用のファンは、スピーカーの背圧に負けてしまうために配置換えとなりました。


プリアンプ部分の回路。部品点数が少ないので、その影響を考え、出来るだけ定格が大きく、音質の保証された部品をチョイスします。

ここで使用しているVTL(フォトカップラー)は、音質を合わせ込むための仮スイッチで、完成ヴァージョンではその機能を固定しています。

感度の高いアンプ初段では、特にアース周りの取り回しに注意します。

こちらは、パワー段の回路です。

パワー管には6384という軍用スペックの球をプッシュプルで使用しています。耐振動性能が高く、頑丈な球なので、ギターアンプ向きといえるでしょう。この球で、フェンダー製のトランスをドライヴしています。

バイアス用の定電流回路には、切り替え可能な2種類の電流値を設定しています。


ラインに信号を送り出すために、バッファーアンプを追加しています。

箱鳴りをセンシングする振動センサーと、プリアンプ部分の信号をバッファリングするアンプの2つの回路で構成されています。

出力端子はHIROSE製の6ピン超小型コネクターで、リモートコントロール用の小型フットスイッチを経由して、ラインに繋ぐことが出来ます。



これが、Bendix社製の軍用パワー管、6384です。一度「事故」でバイアス電流が定格値を超えて流れてしまい、結果この部品はお釈迦になったのですが、しばらく時間を置くと「勝手に再生」してしまったという、かなりヘヴィーデューティーなデバイスです。

ドライヴァーにはゲインによって12AU7と12AX7の2種類を使い分けています。


最終的に回路はこのような感じに纏まりました。

半導体系の部品は熱に弱く、配置には注意が必要になります。特に定電流回路がショートモードに破損した時は、高価な真空管を道連れに昇天してしまう可能性があるので、放熱には特に注意する必要があります。

ヘッドアンプにAU管を使うと、歪みの少ないまろやかな音になります。


その後、日本ペイントさんのご好意で、マジョーラという不思議な塗料をペイントして貰いました。

赤と青のイメージが光の反射角度で複雑に入れ替わります。

日光や強い照明の下で特に威力を発揮する塗料のようです。


こちらは、某劇団の客入れ時に使用した時の写真です。照明の加減で完全に赤いアンプに見えています。

この時は、ライン出力が活躍しましたが、プリ段直後から信号を引き出している仕様のため、生音とのバランスを取るのが難しいことが判りました。今後の仕様変更が望まれます。


当初の思惑とは裏腹に、ハイパワー仕様となってしまったゼロ・アンプ。家の中で使うには余りに五月蠅いので、非常用電源を作って山の中に持ち込んで演奏してみました。

結果、アンダーパワーかな?とも思ったのですが、後日コレを公園に持ち込んで弾いてみたら、向かい(50m以上離れた)の家の壁に音が反射してしまうくらいのTooMuchな音量です。良く考えれば、林の中は葉っぱという吸音材で一杯なのでした。